函館地方裁判所 昭和40年(ワ)187号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、大畑まつが原告らの主張どおり公正証書による遺言をしたこと、その遺言の内容は、同女の所有する別紙目録記載物件をすべて被告に遺贈するというものであつて、同女の死亡後右遺贈にもとずき被告が右物件について自己のため所有権移転登記手続を了えたこと、右まつには相続人がないことはいずれも当事者間に争いがない。
二、原告らに右遺言の無効確認(遺言にもとずく法律関係が現に存在しないことの確認の趣旨とみられる)を求める利益ありやについて考える。
(イ) この点につき、原告らは、本件遺言はまつが判断能力を欠く状態においてなしたものであるから無効であり遺贈も効力を生じない、従つて別紙目録記載物件は相続人のない相続財産となるはずであり、そうすれば原告らは民法第九五八条の三にいう「その他被相続人の特別の縁故があつた者」(以下単に特別縁故者という)として右財産の分与をうけることになるものと主張するのである。
(ロ) しかしながら右法条により特別縁故者として相続財産の分与をうけるためには家庭裁判所の審判を経なければならないのであり、その場合家庭裁判所は当該審判申立人が右特別縁故者に該当するかどうか、これに相続財産を分与することが相当であるかどうかを裁量によつて決し得るのであるから、原告らがその主張するとおりに特別縁故者として財産分与をうけることができるかどうかは、現在において全く不確定であるといわなければならない。
(ハ) さらに進んで、原告らが家庭裁判所に審判申立をした場合、その申立が認容されるかどうか、即ち特別縁故者として財産分与をうける可能性があるかどうかについて考えてみる。
大畑まつと対馬釜吉が永年同棲し内縁の夫婦生活を続けていたこと、原告らは右釜吉の二女イ子の子であることは当事者間に争いがない。また(証拠略)によれば、右釜吉には三浦テイとの間に生れた正弘、トモヱ、イ子の三子があり、その二女イ子は昭和二三年に木村公彦と婚姻をし、両者間に出生したのが原告ら三名であること、釜吉、まつ夫婦と右公彦、イ子夫婦とは(前者は函館市に居住し、後者は松前郡福島町に居住し、後者は前郡福島町に居住していた)通常程度の交際を続けていたこと、右イ子は昭和三二年六月に死亡し、また釜吉は昭和三七年八月に、まつは翌三八年六月にそれぞれ死亡したこと、まつは釜吉に先立たれたのち、高令でもあり身体も不自由であつたので、これを見かねた近隣の人達の手により昭和三八年三月に函館市内の富田病院に入院するようになり、同所に入院中死亡するに至つたものであること、一方被告はまつの遠縁にあたる者で、まつは生前から同じ函館市内に住む被告を老後の頼りにしていたこと、まつの死亡後その葬儀等の一切は被告がこれをとり行なつたこと、前記木村公彦は、まつの前記入院ないし死亡について、その通知もうけなかつたので、死亡後しばらくの間これを知らなかつたこと、以上の諸事実が認められる。
右認定を左右するに足りる証拠はない。
以上の争いのない事実ならびに証拠により認定した事実によれば、原告らは、単に被相続人の内縁の夫の孫でありその関係に伴ない被相続人とある程度の親睦関係があつたという程度にすぎないと考えられる。
もつとも原告ら法定代理人の尋問結果中には、「釜吉が生きていた当時において原吉麻佐子を釜吉、まつらの養子にする約束がされた」との供述があるが、かりに右供述どおりの約束がなされたものとしても、右約束の実行とみられることがらは本件全証換によつても何ら認められないし、前記したとおり、釜吉がまつに先立つて死亡したこと、その死亡後まつは被告を頼りにしていたことをも合わせ考えれば、右養子の話はその後全く解消されてしまつたものとみるのが相当である。
ところで民法第九五八条の三にいう特別縁故者の意義について考えると、同法条により特別縁故者に相続財産の分与がなされるのは、当該請求人(審判申立人)の被相続人との実質的関係、衡平の観点、被相続人の意思の推測等の諸見地から、その請求人につき、同条に例示する「被相続人と生計を同じくしていた者」、「被相続人の療養看護に努めた者」に準ずべきものとして、相続財産を分与することが条理上相当であると認められる場合に限られるのであつて、その場合にその請求人を特別縁故者とみることになるわけである。
とすれば、さきに考察したように単に被相続人の内縁の夫の孫という程度にすぎず、他に被相続人との間において特別考慮に価するほどの関係を有しない原告らについては、特別縁故者として財産分与をうける可能性も存しないものといわなければならない。
(ニ) 以上考察したとおり、原告らの主張する「特別縁故者」としての地位ないし権利は、現在において全く不確定なものであるのみならず、将来においてもその現実化の可能性が存しないものというべきであるから、右「特別縁故者」たることを前提に遺言の無効確認を求める原告らの請求はその利益を欠くものといわなければならない。(千葉裕)